Book Palette:色を介した書籍発見システム

岡本研究室 久保田知靖

 電子商取引(EC)の発展に伴い、書籍に出会う機会は多様化した。2020年の経済産業省の調査では、「書籍、映像・音楽ソフト」のEC化率は42.97%で、前年比伸長率は8.79%と増加傾向にある。書籍におけるECとして、オンラインで書籍を販売するネット書店がある。Amazonや楽天ブックスをはじめとするネット書店は、時間や場所に問わず、豊富な書籍から選択し、購入することができる。また既存のネット書店は、売上高やユーザの購入履歴に基づいて書籍を推薦する。例えばAmazonの推薦機能に「この商品を買った人はこんな商品も買っています」がある。この推薦によって、ユーザは目的の書籍を素早く発見し、関連性がある書籍と比較し、購入することができる。
 しかし、私はネット書店において、実店舗を持ち書籍を実際に販売するリアル書店のような、偶然性や意外性のある心躍る書籍との出会いがないと考える。理由は二点挙げられる。一点目がネット書店の書籍は売れ行きの良い書籍や話題性のある書籍から順に表示されるので、どのネット書店を見ても同じ書籍が多く先頭に表示されており、画一的な書籍との出会いとなっていることである。二点目が推薦システムはユーザの好みや傾向に合わせた書籍を推薦するが、同じジャンルや著者の書籍が表示されるので、自身の興味や関心の範囲を越える書籍との出会いがなく、リアル書店にある書籍の探索的な出会いのような自由度がないことである。

 本研究の目的は、ネット書店においてジャンルや著者に限定されず、読んでみたいと思える偶然性や意外性のある書籍との出会いを作ることである。そこで、色を介した書籍発見システム「Book Palette」を制作した。Book Paletteは色を組み合わせる配色操作を行うことで、表紙の色割合に基づいた書籍を表示する。
 Book Paletteを評価するために、既存のネット書店と比較実験を行った。実験の目的は、Book Paletteを利用することで、ユーザがジャンルや著者に限定されず、読んでみたいと思える偶然性や意外性のある書籍との出会いを作ることができたのか調査することである。実験は、Book Paletteと比較対象のネット書店をそれぞれ5分間ずつ利用して、その後に5段階評価と自由記述式のアンケートに回答してもらった。
 実験結果では、質問項目の「読んでみたいと思える書籍は見つかったか」の5段階評価は、Book Paletteの平均値が4.58、比較ネット書店が3.17であった。次に質問項目の「驚きや意外性のある本との出会いはあったか」は、Book Paletteの平均値が4.25、比較ネット書店が2.17であった。いずれもBook Paletteの平均値が、比較ネット書店に比べて有意に高い結果となった。さらに自由記述式のBook Paletteの良い点として、「今まで見てこなかったジャンルの本にも出会える」や「意外性があって面白かった」などが挙げられた。以上の結果から、実験目的であるBook Paletteを利用することで、ユーザがジャンルや著者に限定されず、読んでみたいと思える偶然性や意外性のある書籍との出会いを作ることができたことが確認された。

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