バーチャル空間の歩き方:方向感覚とインタラクションの関連
南部研究室 吉兼刃矢
我々は日常生活の中で,ある場所から目的地へと移動をする行為であるナビゲーションをする.しかし,このナビゲーションをする能力には,個人差があることが知られている.
例えば,初めて訪れた場所でも迷わず目的地にたどり着くことができる人もいれば,何度も行ったことがある場所でも道に迷ってしまう人もいる.
一般的に,前者のような人は「方向感覚が優れている」とされ,後者のような人は「方向感覚が劣っている」とされる.この「方向感覚」については,ナビゲーションの場面を対象に研究や観察が行われてきた.
先行研究によって,ナビゲーション場面でのインタラクションや能力と,方向感覚の関連についてさまざまな知見が得られている.
しかし,本研究が対象とするバーチャル空間において,人はどのようなインタラクションをしているのかについては,まだ検討の余地がある.
そして,そのインタラクションと主観的な方向感覚が関連しているのかは,まだ十分に明らかになっていない.
バーチャル空間に着目した理由は,VR 技術の発展によってさらなる活用が見込まれるためである.個人がオンラインで擬似的に旅行にいくバーチャルツアーや,
火事や地震といった災害をバーチャル空間で事前に体験するという防災・避難訓練など,新しい体験が普及,検討段階にある.
このような活用例があることから,バーチャル空間でのナビゲーション場面に着目し,認知特性を検討することは重要であると考えられる.
本研究では,竹内 (1992) が作成した方向感覚質問紙簡易版(SDQ-S)を用いて,参加者を方向感覚の自己評価が高い上位と,低い下位の2群(以下,上位群を(上),下位群を(下)と表す)に分類し,
バーチャル空間としてGoogleストリートビュー(以下「GSV」と呼ぶ)の空間内でナビゲーションをする実験を行った.
そして実験中の発話や行動を分析し,バーチャル空間におけるナビゲーション場面でのインタラクションと主観的な方向感覚の関係性について検討した.
分析・考察の結果,ナビゲーション場面では,空間を把握する視点や情報を活用する場面について,(上)の方がより優れたインタラクションを行なっている可能性が示唆された.
また,一目で何か言い表せなかった目印について,何とも表現せずにスルーしてしまうという例が(下)に見られた.
その一方で本研究の実験では,目印についての発話表現の内容や,情報を関連づけて記憶するというインタラクションについて,主観的な方向感覚との関連は明らかにならなかった.
そして,本研究の実験で見られたGSV空間特有のインタラクションについては,主観的な方向感覚が関連する例が見られなかった.
この点については,異なるルートや条件で実験することによって,この実験で見られなかったバーチャル空間特有のインタラクションが観察される可能性がある.