マンガの背景画像と言語の関連性の分析
迎山研究室 村野裕樹
マンガは言語や映像とは異なる形式を持つメディアであり、様々な学問領域や分野に登場するほどマンガを対象とした学術研究が盛んに行われている。
しかし、数あるマンガ研究の中でもマンガ背景を主題とする研究はいまだ少ない。
マンガには対象の特徴を強調し、それ以外の細部を省略する表現方法であるデフォルメが多く使われ、作者によって写実的に描く場合もあれば、よりデフォルメされた形で描く場合もある。
人が対象を認知するために行う情報処理において、認知心理学の分野では、データ駆動型処理と概念駆動型処理の2つの処理が行われているとされている。
データ駆動型処理は目や耳からの信号を解読し、得られた特徴から特定の項目を構成する要素を認知することで解釈を行う処理方式である。
概念駆動型処理は対象に関する記憶や経験、知識によって形成された概念と感覚信号に対する簡単な仮説や期待を用いて、予想される結果を生み出す処理メカニズムの注意を誘導することで、感覚信号に対する特徴分析の誘導や欠落部分を補充する情報を記憶から取り入れることなどを行う処理方式である。
概念が形成されやすい一般的な場所を対象とすれば、マンガ背景のほうが写真背景よりも場所の認知がしやすいのではないかと考える。
デフォルメされた表現が多く使われるマンガ背景は、実世界の写実的な背景よりも特徴が強調されているため、先述した概念駆動型処理が誘発されやすいと考えられるためである。
本研究の目的は、マンガの背景表現に注目し、描写されている表象の普遍性を調査することである。
評価実験の準備として、「アパート」「ゴミ捨て場」「マンション」「下駄箱」「学校」「空き家」の6つの場所が描かれたマンガの背景コマと、同じ場所の実世界の写真を同数用意し、色彩の調整や背景以外の情報の消去などを行った。
これらの計38枚の画像を用いて大学生10名に評価実験を行った。
被験者には各画像の背景の場所に適した名前、画像背景がつけた名前にどれほどらしく見えるかの6段階評価、画像背景につけた名前の場所らしさを表す特徴の自由記述の3つを回答させた。
分析の結果、「学校」と「空き家」はマンガ背景の方が写真背景よりもらしさの評価が高く、「アパート」と「下駄箱」はその逆となった。また、マンガジャンルによる認知の有意差はなかった。
そして、自由記述からは同じ場所で複数のマンガジャンルがある「アパート」と「学校」において、各ジャンルで共通した特徴が得られた。
「学校」と「空き家」についてはデフォルメの描かれ方がされており、概念駆動型処理が誘発されることでらしさの評価が高く、「アパート」と「下駄箱」については写実的な描かれ方がされており、データ駆動型処理が誘発されることと、写真背景のほうがより写実的であるためらしさの評価が低くなったのではないかと考えられる。
結論として、マンガ背景はデフォルメして描いた方が認知されやすく、背景から連想される単語に共通性が見られた。