ナッジから逃れやすい人とは?: 批判的思考態度とパーソナリティ特性の影響の検討
南部研究室 田中陽都
ナッジとは,強制によってではなく自発的に人々の行動を望ましい方向へ誘導する「仕掛け」のことである.特徴として,強制を伴わないため個人の選択の自由が保障される点や,無意識的に選択を誘導することができる点が挙げられる.ナッジは,法規制のように人々の行動を制限することなく問題解決の後押しができる手法として,社会的問題の解決に役立てられている.ナッジにはさまざまな種類があるが,意思決定がデフォルト(初期状態)に流されやすいことを利用した,デフォルトナッジは生活の中でもよく使われている.
しかし,ナッジが本当に個人の自由を保障しているのかについては疑念が残る.さらに,ナッジを使って都合のいいように誘導させようとする悪用事例も報告されている.ナッジの悪用から身を守るために,意思決定者自身が情報を鵜呑みにせず,自分自身で内容を検証するような考え方が求められている.
本研究では,「情報を鵜呑みにせず,自分自身で内容を検証するような考え方」の具体的な内容として批判的思考を検討する.批判的思考は,21世紀を生きるのに必要とされる「21世紀」スキルの1つとしても注目されている.本研究では,批判的思考の情意的側面(態度)に注目し,批判的思考態度とナッジへの反応の関連性を検討した.また,批判的思考態度とパーソナリティ(性格)の間には関連性があるという先行研究から,パーソナリティとナッジへの反応の関連性も検討した.
調査はウェブアンケートを用いた質問紙調査により行い,一般人114名から回答を得た.ナッジへの反応を測るための質問のテーマとして,「臓器提供」と「政策」の2テーマを用意した.
分析の結果から,批判的思考態度を構成する要素のうちの1つである「論理的思考への自覚」の力が強い人は,臓器提供のテーマではナッジの影響を受けやすくなったが,政策のテーマではナッジへの影響を受けにくくなっていることが明らかになった.
また,パーソナリティとの関連性については,臓器提供テーマでは「外向性」が,政策テーマでは「勤勉性」がナッジへの反応に影響を与えていた.
このことから,臓器提供などの,社会的に望ましい選択が決まっているテーマでは,社会的に持っていると望ましいとされる性質(論理的思考への自覚・外向性)をもつ人が選択を誘導されやすい可能性が示唆された.