アールグレイ紅茶の香りが自律神経系および気分に与える影響
伊藤精英研究室 小沼史織
疲れを感じたときやストレスを感じたとき、どのようにそのストレスを緩和させていますか?ブレイクタイムにコーヒーや紅茶を飲む場面や、仕事終わりにお酒を飲む場面を日常生活でよく見かけます。コーヒーや紅茶、お酒といった嗜好飲料は、気分転換に効果的な可能性が大きいです。しかし、このような嗜好飲料が具体的に私たちの体にどのような作用をもたらすのかについての研究は多くありません。研究の中でも、嗜好飲料を飲んだ場合の作用についてのものが多く、これはカフェインやアルコールの影響を受けています。嗜好飲料の香りのみに注目することで、嗜好飲料そのものが持つ作用を明らかにすることができると考えました。すでに行われている研究から、日本酒の香りである吟醸香がリラックス効果を持つこと、ダージリン紅茶の香りが睡眠改善効果やリラックス効果を持つことが分かっています。そこで私は紅茶、特にアールグレイ紅茶に注目し、先行研究を参考にアールグレイ紅茶の香りが持つリラックス効果についてを研究しました。紅茶はツバキ科の常緑樹の葉を酸化発酵させた茶葉から抽出された飲料です。抽出液の色から紅茶、英語ではBlack teaと呼ばれます。中国発祥の飲料であり、現在では世界中で幅広い年代の人に親しまれている嗜好飲料の一つです。「ダージリン」「ウバ」「キーモン」の3 つの産地で収穫された紅茶が世界3大紅茶として知られています。紅茶は酸化発酵により発酵前の茶葉にはないさまざまな 気成分が生まれるため、お茶の中でも香気成分が多く、470 種類以上と言われています。その中でもアールグレイ紅茶は、紅茶の茶葉にベルガモット(柑橘類)の香りを付けたフレーバーティーを代表するものの1つです。ダージリン紅茶とベルガモットの香りがリラックス効果を持つことは既に明らかになっています。このことから、ダージリンの茶葉を使ったアールグレイ紅茶ならば相乗効果から、より高いリラックス効果が期待できると予想しました。アールグレイ紅茶の香りが持つ効果を明らかにすることにより、フレーバーティーの活用法の提案や紅茶の香気成分とリラックス効果の関係へと繋がると考えています。
公立はこだて未来大学の学生6名に協力してもらい、実験を行いました。アールグレイ紅茶のにおいを嗅ぐ紅茶条件とお湯のにおいを嗅ぐ白湯条件を設定し、実験中の手の甲と額の皮膚表面温度を条件間で比較しました。この実験で採用した手の甲と額の皮膚表面温度からその人がリラックスしているか、緊張しているかを判断することができます。手の甲の皮膚表面温度は、リラックスしているとき高くなり、緊張しているときは低くなります。これは交感神経と副交感神経の影響によるものです。一般的に緊張しているときは交感神経の活動が活発になります。反対にリラックスしているときは副交感神経の活動が活発になります。このことを利用して、手の甲の皮膚表面温度が高いときは、副交感神経が優位な状態でリラックスしていると判断しました。反対に低いときは、交感神経が優位な状態で緊張状態にあると判断しました。実験を始める前と終わった後で気分にどのような変化があったのかを質問紙を用いて評価しました。実験の結果、白湯条件に比べて紅茶条件では、手の甲の皮膚表面温度が大きく上昇しました。これは副交感神経の活動が活発になっており、アールグレイ紅茶のにおいを嗅ぐことでリラックスしたこと可能性が考えられます。また実験協力者の気分評価において、アールグレイ紅茶のにおいを嗅いだときは「指先が温かい」「眠い」「心地が良い」と感じていることから、リラックスしていることが予想できました。実験の結果から、アールグレイ紅茶の香りが交感神経の活動を落ち着かせ、副交感神経の活動を活発にすること、リラックス効果を持つことがわかりました。ぜひ紅茶を飲んで楽しむだけでなく、紅茶の香りにも注目してみてもらいたいです。