遺伝的アルゴリズムを用いたオノマトペ生成システム

安井研究室 奥山譲

日本語によるコミュニケーションの一つに、オノマトペ(擬音語、擬態語)を使った表現方法がある。オノマトペには、鳴き声や人の声を描写した擬声語(ワンワン、エーンエーン等)、擬声語以外の音を表した擬音語(ドンドン、ゴロゴロ)の他に、動作や事物の様態、状態を表した擬態語(キョロキョロ、ピカピカ)もある。擬態語の内、特に人の感情や心理状態を表したものを擬情語(イライラ,ウキウキ,ソワソワ)と呼ぶこともある。それらは音だけではなく文字としても日常的に使われている。
 また,オノマトペはその語音の並びだけで,受け手にその状態をイメージさせる力を持つ.つまりオノマトペは実際の動作,状態,音などを音の並びへと抽象化し,尚且つそれは人々に共通認識を与えるものだということがわかる. そこで筆者は,今までオノマトペとして表現されていないものを,新たにオノマトペとして抽象化するようなシステムが作れないかという疑問を感じた.
 動作や状態をオノマトペへと抽象化するにあたって, 解となるオノマトペは人によって異なることが容易に想像でき,そもそも存在しないことが十分にあり得る. そこで, 最適化を行うことで限りなく正解に近い答え(最適解)を見つけ出すことにした. 最適化とは,ある基準に従って最も適切とされる設計, 計画,行動などを求めることであり,その最適化問題をどのように解けば良いのか,その手順を与えるのが最適化アルゴリズムである。
 最適化アルゴリズムの中には,対象となる問題を特定した手法(ヒューリスティックアルゴリズム)と特定していない手法(メタヒューリスティックアルゴリズム)がある. 前者の代表例としては,線型計画法の解法であるシンプレックス法や楕円体法などが挙げられる. 典型的な最適化問題については,その問題に特化した最適化アルゴリズムが数多く提案されている. 一方で解くべき問題に関する情報が十分に得られない場合、対象となる問題を限定しない一般的な手法が必要となる。その一つに遺伝的アルゴリズムが挙げられる。
 遺伝的アルゴリズムは1975年にミシガン大学のJohn Henry Hollandにより提案され,生物の進化メカニズムを模倣して最適解を探すアルゴリズムである. このアルゴリズムは,設定された適応度に応じて対象に擬似的な交叉や淘汰を行い,世代交代を重ねることで最適解へと近づけ行く. 加えて,メタヒューリスティックアルゴリズムの中でも適用範囲が広く,同時に計算コストも高いが,近年,計算機の性能向上および価格の低下より用いられることが増えてきた。

本研究では, 今までオノマトペとして表現されていないような動作や状態をテーマに据え, そのテーマに関する人々の多様な印象の捉え方を遺伝的アルゴリズムを応用し, 漠然とした共通のイメージを集合的にオノマトペへ抽象化するような参加型のオノマトペ生成システムを作成する.
 本実験では「公立はこだて未来大学の今の雰囲気」をテーマに,オノマトペ生成システムを用いて抽象化を行う.
 30名程度の本学学生を対象に約2ヶ月間,十世代以上の世代交代が生じるように投票を実施する. その後,投票データを基に,生成されたオノマトペとオノマトペ生成に携わる各世代の母集団, 加えて, それらの推移データを評価方法に則って精査し,本システムの評価を行う.
 実験結果としてオノマトペ生成システムからは「エシエメ」というオノマトペが得られる結果となった.
生成されたオノマトペ「エシエメ」について, 筆者は静寂と無機質なイメージを感じた. また,イメージに対する一意見として吉見の研究が挙げられる. 日本語の音韻による印象については様々な意見が散見されるが, 吉見の研究では,本実験で生成されたオノマトペ「エシエメ」に含まれる文字「エ」,「シ」,「メ」をそれぞれ,文字「エ」からはわずかな快適感, 文字「シ」からは高い静謐感とわずかな無機質感, 文字「メ」からはほんのわずかな粗暴感が得られるとしている. これらを総じた印象は, 筆者が感じた生成オノマトペのイメージと類似することが示唆される.「公立はこだて未来大学の今」に対して学生らは筆者同様に静寂感や無機質感を漠然と抱いていることが生成されたオノマトペ「エシエメ」から推察される.

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